暗香2011年02月28日

梅満開
我が家の前はちょっとした梅園になっていて、今現在その梅が満開です。午前中に小糠雨が降って、暖かいこんな晩は、梅がことのほか香ります。ついさっき、納屋にしまってある文旦を取りに外へ出たら、花は見えませんが辺り一面梅の甘い香り。暗香(あんこう)といって王朝和歌で好まれた素材でした。

 春の夜の 闇はあやなし 梅の花 色こそ見えね 香やはかくるる
                               (古今・春上 凡河内躬恒)
 梅が香に おどろかれつつ 春の夜の 闇こそ人は あくがらしけれ
                               (千載・春上 和泉式部)

たしかに視覚がかつ日中よりも、暗闇の中でのほうが梅は香る気がします。
もちろん月夜の梅も詠まれています。

 大空は うめのにほひに かすみつつ くもりもはてぬ 春の夜の月
                               (新古今・春上 藤原定家)

梅の匂いにかすむ空、そこにかかる朧月。さすがは定家、艶ですね。いかにも新古今らしい歌です。
新古今の梅の歌には、こんな一群もあります。

 梅が香に 昔を問へば 春の月 こたへぬ影ぞ 袖にうつれる
                               (新古今・春上 藤原家隆)
 梅の花 誰が袖ふれし 匂ひぞと 春やむかしの 月に問はばや
                               (新古今・春上 源通具)
 梅の花 あかぬ色香も むかしにて おなじ形見の 春の夜の月
                               (新古今・春上 俊成卿女)
春の月と梅の香りに昔の恋を思い出すという歌で、これはもちろん伊勢物語の
 月やあらぬ 春や昔の春ならぬ わが身ひとつは もとの身にして
を本歌にしたものです。さすがは新古今、艶ですな~。